ビジュアル国語辞典

R25「ビジュアル国語辞典」という企画をやっています。日テレで1回限りの60秒CMも放送したそうです。基本的に映像コンテンツですが、これは大変すばらしい。驚きました。私がやりたいことは正にこのような仕事です。
まず第一にこの仕事は、商品から出発せずにコミュニケーションそのものが商品として成立しています。「ビジュアル国語辞典」というフレームがあって、その中にどしどし商品のメッセージをネタとして取り込むことが可能になっている。ネタとして伝達できるというのはつまり、コマーシャルの体裁でありながらも、視聴者に対してコンテンツとして受容されるということです。例えばライオンのPRO TEC HEADが訴えたい「毛穴すっきり」というUSPを「け」で始まる単語のひとつとして回収する(ネタ化)ことで、商品メッセージがいとも簡単に楽しいエンタテイメントへと変換できるわけです。このフレームはあらゆる商品を飲み込むことができるという点において発明でした。

第二に、この表現はコピーではなく“タグ”を強く意識した作りになっています。「け」で始まる単語をひたすら羅列しながら、その中に「毛穴すっきり」をはさみ込むことで、受け手はそのUSPが刷り込まれてしまいます。そして最後のコピー「頭皮ケアの結論」という言葉は、もはや意味ではなく、語感を意識した上でのコピーになっている。これはコピーライターではなくインターフェースデザイナーとしての意識だと言えます。「ケア」「結論」とひたすら「け」というタグを受け手の耳に叩き込みながら、そのリズムの上に広告の意味をのせようとしている。コピーは意味を伝えようとしますが、タグはひとつの意味でありながら、他の意味とつながるハブでもあるわけです。「け」というタグがあらゆる意味の媒介として機能するということです。
「ケナガイタチサーブ」「けだし名言」「ケツかっちん」「鍵盤お父さん」という違和感のある、引っかかりのある言葉をいくつも散りばめていることも、タグ的な意識です。この点は成功するためには仕掛けが必要でしょうが、これはニコニコ動画などのアーキテクチャを活用する場合に、極めて有効な表現となるはずです。例えば「ケツかっちん」というタグから連想して、盛り上がったニコ動のユーザーが何か孫作品をつくる可能性がある。そういった二次創作をうながすために、送り手は「ケツかっちん」に関するあらゆる動画を用意しておく必要があります。「ビジュアル国語辞典」はあくまで一次創作を用意しただけで、その関連作品まで準備していないようですが、本来はこの波及を想定しておかなければなりません。YouTubeの再生数の少なさを見てもわかるように、いかにして拡散させるかが次なる課題でしょう。しかしながら表現のレベルにおいて、コピーではなく、非常にタグ的な意識を持っていることが秀逸だと思いました。