糸井重里と約束3

新しい広告のあり方を探る会議にて、新しいプランニングの流れを作っていた。結局は昔から試されてきたフレームそのものになってしまい、なるほど偉人を乗り越えるとはなかなか難しいものだなと改めて実感していた。しかしながらここで私は徹底して守ったのは、核となる中心点を、もっとアウトプットに近いものにしたいという想いだった。そこで私はコンセプトの代わりに、JWTの桶谷功から学んだ“プロポジション”を使うことを提唱した。プロポジションとは、商品が顧客に与える価値という意味で使われる概念だ。コンセプトと同じように思えるが、その違いは相手に対してのメッセージを約束するかどうかだと言えるだろう。
コンセプトは約束をしないが、プロポジションは約束をする。コンセプトは絵が想像しにくいが、プロポジションは絵が一足飛びに想像できる。例えばあるビールのコマーシャルの企画を考えるとき、コンセプトが「最高品質」だとすれば、プロポジションは「コクがあってキレがある」と位置づけることができるだろう。顧客にコクとキレを舌に与えますよ、という約束をしているわけだ。これまでの広告制作において「コクがあってキレがある」というのはキャッチコピーではないか、と考えられる向きがあったが、現代においてはコンセプトをさらに洞察して、商品と社会の接点の深みに入らなければ言葉が機能しないという時代になったと私は考えている。つまり位相が変わったということだ。洞察に重心がうつる、すなわちプロポジションを考えるのは、マーケターよりもクリエイターの方がうまいはずである。現在のクリエイティブの位相が大きく変動しているのは、そのような前提が背景にある。
コンセプトとプロポジションの違いは、現在の広告の作り方を考えるにあたって重要な示唆を与えるはずだ。広告人はあまりにも簡単に、コンセプトやらブランディングやら戦略という言葉を使いたがる。それらの用語は、広告という狭い範囲で職能をもつ者が使うべき用語ではないのではないか。*1 私たちが極めるべきはコミュニケーションの最大化であって、ブランディングの成就ではない。本気でブランディングをやりたいのであれば、広告会社を辞めてメーカーのR&Dかコンサルファームに転職するべきだ。だから私たちは、使うべき用語をあえて絞る必要があるのではないか。意識レベルから変えることで、新しい広告の量産体制を築きたいというのが最近の目標だ。
 

*1:筆者はかつて「コンセプト/ブランディングの廃止」というエントリを書いたことがある