3×映画
1年振りだろうか。映画を観た。多田啄の『SURVIVE STYLE5+』。ウォン・カーウァイの『2046』。松尾スズキの『恋の門』。3本連続である。
大きく捉えればどれも錯綜する恋愛模様がお題目だが、ぼくの嗜好の変容を顕わしたかのようなラインナップになっている。つまりぼくが中学生くらいの頃はたぶん『SURVIVE STYLE5+』に喜んだろうし、かぶれていた高校時代ならば『2046』の説明に窮する投げ掛けに答えるように、あるいは本の代わりとしてのめり込んでいただろう。とはいえぼくが現時点でおもしろいと感じたのは『恋の門』である。松尾氏の圧倒的な表現力にも負けるが、引きこもりを始めて今に至るまでの感性は、やはり細かく仕掛けられたフックにわざと引っかかっりたくなる。
『恋の門』はただ眺めているだけでも楽しめるし、リプレイしてディティールを観賞するにも適したスルメのような映画だ(エッチなシーンも多いのでおっさん的に嬉しい)。しかしながら、それは過去のシミュラークルで形成された『SURVIVE STYLE5+』や、前作『花様年華』の文脈を強いる『2046』にも同じように、別の誰かは読み込み可能なのかもしれない。映画は応用可能性に満ちた「大きな物語」を召喚してはくれない、というわけだ。
ぼくは映像をテクストに置き換えられない。カメラワークや構図といった技術論ならばともかく、叙述的に描く術をぼくは知らない。映画は心象に訴えるメディアなので、思い出の宝箱を取りだして叙情文をしたためざるをえない。だからぼくは、やはり映画を観てはならない。
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