6×ポピュリズム

世界はグローバルに広すぎるから自分の領域を確保し、世界を狭めないと不便だし不安で夜も眠れない、と考えたことはないだろうか。かなり大げさに表現してみたのでほとんどの人は「はぁ?」だと思うが、多かれ少なかれ私たちはリスクを増やすことでチャンスを減らしながら、効率よく暮らしているような気がしてならない。

不勉強なのでよく知らないが社会システム論ではこれを「複雑性の縮減」という二クラス・ルーマンの言葉を元に議論している。認知処理の限界によって、人間は情報量が多すぎると処理できずにパンクする。そして何より合理的な動物だ。誰かが薦めるなら(振るい落とし)、自分はこれが好きだから(デモグラフィック入力)によって情報を最適化せねばならない、という不安に怯えている。

信頼―社会的な複雑性の縮減メカニズム

信頼―社会的な複雑性の縮減メカニズム


では「もしかするとこんな素晴らしいのに出会えたかもしれない」といった偶有性を排除することで何が起こりうるか?まず予想されるのは世界のポピュリズム化(愚民による多数決主義)だろう。例えば郵政民営化は○か×か、だけで峻別を迫った政治戦略の帰結は、なるほど確かに自民圧勝だった。あの選挙は確かに2ちゃんねる的保守性、あるいはサイバーカスケード的な結果であったが、それは私たちがバカだから判断停止しただけでなく、「忙しいからマニフェストさえも読むヒマなんてないわ。とりあえずワイドショーみて、何をいってるかわかる人に投票すればいいわよ」という偶有性の排除を無意識に行使したのも根拠のひとつであろう。


複雑性の縮減、ポピュリズムといった流行のキーワードを並べてみると、すぐさま連想されるのがウェブの検索エンジンだ。Googleはロボット検索によって機械的に民意を拾い集め、情報の格付けを行う。人は人が欲しがっている情報だけを欲しがって楽をし(ラカン的にいえば他者の欲望を欲望する?)、カンタンにツボを刺激してくれるからカンタンに萌えちゃうわけだ。

だが私が本当に恐ろしいと思っているのは、ポピュリズムがいつのまにかスターリニズムファシズムに転化する事態である。というのもロボット検索だからといってその結果はすべて民意かといえば決してそんなことはなく、見えないサリンのように恣意も混入されるからだ。実務家的な話になるが、ウェブマーケティングには「成果報酬型のSEO対策」というものがある。要はこのキーワードを検索すれば上位1〜3位にランクできますよ、できなきゃお金はいただきません。という広告メニューは存在していて、それは幽霊的な広告として極めてラディカルな形態だといえよう。なぜならソースコードを洗い出さない限りは、パッと一目しても民意と恣意の区別はまったくつかないからだ。つくづく資本の論理は恐ろしい。

したがってポピュリズムを紐解いてみるとその中身は、動物的かつ機械的な直感と、それを監視/管理する権力、この2つによって規定されているのではないか。前者の比重が高まるとポピュリズムになり、後者が強くなっていくとファシズムに陥り、監視国家化するわけだ。