6×記憶

今日はひさびさに図書館に入り浸って『中央公論』『現代思想』『ダカーポ』『広告批評』『美術手帖』のバックナンバーを読み飛ばしまくった。

現代思想』の中で小泉政権時のコミュニケーション戦略の分析があって,世耕弘成というメディア操作の広報マンがいたことを知った。記事によると世耕はPR会社のブラップ・ジャパンを担当広告会社として使いつつ,「改革を止めるな。」というキャッチフレーズにおける「改革」の社会的な集合記憶に基づき,「郵政民営化は是か否か」の二者択一をせまることで圧倒的な投票獲得に成功させたという。これは古くはフランク・ランツが発明したマインド・マネジメントの理論を大いに援用しているそうだ。なるほどと思いつつ『中央公論』の最新号をめくっていると,阿部総理の成功秘話について世耕が鼎談していた。どうやら安倍内閣首相補佐官にまで任命したようだ。

一方で『広告批評深澤直人特集によるインタビューのなかで深澤は「デザインは,みんなの記憶のなかにある。」と語っていた。例えば無印良品の壁掛け式CDプレイヤーは,ヒモを引っぱることでCDが緩やかに回転をはじめ,微風を巻きおこしながら音楽再生されるその所作をどの家庭でも使われている換気扇に見立てていた。

深澤のこの感性は,世耕が用いた集合記憶理論と重なり合うところがある。また今年の1月に逝去した現代美術家ナム・ジュン・パイクの作品群にもまた,集合無意識的な呼び覚ましを感じることがある。というより良い芸術作品の条件は決まって,人々の古く美しい記憶を叩き起こしてきたのだが。「さよなら ナム・ジュン・パイク」展はワタリウム美術館で10/9(月)までの会期らしい。http://watarium.co.jp/exhibition/index.html

世耕弘成の集合記憶理論。深澤直人のアクティブ・メモリー論(あるいはジェームス・ギブソンのレイアウト/サーフェス/テクスチャー)。ナム・ジュン・パイクインスタレーションが交差する,その射程を感じている。