11×人を評価する

幾つかの広告会社では人事評価に目標達成システムが採用されている。自分で目標を立てて、その目標の達成率は100%を上回ったか下回ったかで通信簿が出される。しかし、とある会社ではコンセプトとシステムに整合性が取れておらず、蓋然性の疑わしい中身になるのが散見されているらしい。ただし営業は明確である。金をいかに稼ぐかである。社平均の利益パーヘッドを超えてるか超えてないかで偏差値が付く。それで年収が決まる。明確だ。では内勤スタッフはどう評価すべきだろうか。低い目標を設定すればそれだけ達成度は簡易になるわけだが、そこは上層管理するしかないだろう。問題になるのは評価の決定基準だ。
営業は営業売上と利益額を目標と定めればよいが、内勤にまで同じ数値で判断するのは相当に無理がある。まず関与度が極めて曖昧だ。マーケターとクリエイターとメディア担当など、数多とスタッフは関与しており、各部署の中でも複数人が関与している場合がある。例えば10億円のグロスと2億円の利益のプロジェクトに、マーケターが4人関わっていたとするとその配分比率はどのように評価すべきだろうか。あるいはスタッフの間で配分するという発想そのものが営業評価と混同してはいまいか。
個人的には担当営業か上長が評価すべきだと考えるが、目標管理システムという仕組みの中では自己判断で帰着する。あるいはスタッフ間での話し合いによって勘案する。しかし最終的には「いや、それはなんか違う感じだねぇ」と上層の感性評価で決定するんだからたまったものではない。だから主担当が私であれば、スタッフ評価は均等に配分しようと言うしかない。そして副担当の場合は沈黙するしかない。
企画部門の評価というのは極めて難しい。とはいえ批判ばかりしても仕方ない。解決策を提示しよう。


1.擬似通貨配分システム各営業の利益、例えば年間利益が3000万円であれば、その半分は内勤スタッフの人件費に当てられている。であれば半分の1500万円を擬似通貨として営業に与え、営業は内勤に擬似フィーを払って発注する。ただし擬似フィーを得るのは主にマーケターやクリエイター等の企画部門に限定し、いわば彼らを生産ラインに参入させる(営業の生存に必要なメディアや管理部門は完全な非生産ラインとして除外する)。1500万円の擬似フィーを支払いきったら企画部門を使うことはできない。彼ら企画部門は年間にどれだけの擬似通貨を得たかで評価が判断される。ただしこのシステムには営業と企画部門の中で談合が生じる可能性があるため、企画部門はフィーと同時に生産物とプロセスの提出も義務付けられる。営業はプロセスは問わないが、企画部門はプロセスも重要視するのだ。


2.社員同士評価システム
1の仕組みは営業に持ち点を与えたが、これは各スタッフに持ち点を与えてお互いに評価し合う制度だ。スタッフの間で最も貢献したと考える人に100点を与えて、その相対評価で他の人も評点を与えていく。2005年度に はてながボーナス査定で取り入れたのは、自分を含めた全社員を点数で評価し、さらにその点数を元に集計を行って支給額を算出するというものだった。はてなが面白いのは最も評点の高い人からの評点ほど高いポイントに換算されるというGooglePageRankによく似たアイデアを取り入れたことだった。ただしこの場合も同じプロジェクトチームで組む人同士で談合する可能性が高いため、チーム編成のルーティンを規律化する必要がある。はてなでは、プロジェクトごとに主担当と副担当の最小2名のユニットで進行をしている。これをプロジェクトごとに人員をシャッフルし、全てのスタッフが協同作業するように運営している。Aの案件で主担当をしている人は、BやCの案件で副担当をしていることも多い。そのようなスタッフ編成があってこその評価システムといえよう。


久しぶりにハードな話を書いた。だが上記の話もコミュニケーションを考える上の具体的なケーススタディでもある。例えば評価システムを考えるのであれば、貨幣論を考えるのがよい。貨幣は物々交換の間に立つ媒介物であり、お互いの評価が成立してこそ介在されるコミュニケーション評価システムの原論である。その哲学的な意味に私は関心がある。